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活動実績

第5回いばらきeスポーツアカデミー レポート

文:いばらきeスポーツ産業創造プロジェクト推進協議会 事務局 小野 さおり


 2021年2月19日,「第5回いばらきeスポーツアカデミー」を開催しました。
 前回に続きオンラインでの開催でしたが,今回はNTT東日本グループのご協力のもと,YouTubeでのライブ配信としました。
※第1回~第4回の詳細は,活動実績ページよりご覧いただけます。

 

 今回も県外を含め,約60名の方々がご参加くださいました。
 第5回のテーマは「筑波大学,茨城県,NTT東日本グループが考えるeスポーツの可能性」。株式会社NTTe-Sports代表取締役副社長の影澤潤一氏と,国立大学法人筑波大学体育系助教の松井氏を講師にお招きし,ICTの融合によるeスポーツの可能性や,スポーツ科学で引き出すeスポーツの潜在的効果についてご講演いただきました。

 影澤氏は「NTTe-Sportsの取り組みと,eスポーツの今後の可能性」をテーマに,事業会社「NTTe-Sports」設立の経緯からICTによるeスポーツ事業の展開について紹介しました。
 「2019年の日本eスポーツ市場規模は61.2億円であり,10代後半から30代後半における認知度が非常に高いことから,自治体からは『町おこし』や『若者誘致』の手段として着目されている」と,現在のeスポーツの近況について影澤氏は語りました。
 「ICT×eスポーツ」で地域活性化の実現を目指し,2020年1月に設立された株式会社NTTe-Sportsですが,その発足は,eスポーツを社会課題解決に活用したいという自治体の相談を多く受けたことがきっかけだったといいます。
 サポート・教育事業「ユニキャン」や,秋葉原のeXeField Akibaといった施設事業などを展開し,「ICT×eスポーツ」を通じて新たな体験やつながりの創出,新しい文化や社会の創造,地域社会と経済への貢献を目標とするNTTe-Sports。ICTだけでなく,日本eスポーツの大きな課題の「ネガティブイメージの払拭」のために,正しい知識の普及活動やコミュニティの支援活動など,eスポーツを文化として認め,地域に定着させていく取り組みにも注力しています。

 松井氏は「スポーツ科学で引き出すeスポーツのポテンシャル~活力と絆に与える生理学的効果検証~」をテーマに,スポーツ科学からみたeスポーツの可能性について先行研究や筑波大学独自の取り組みに基づいて紹介しました。
 筑波研究学園都市の中心に位置し,国内有数のスポーツ科学研究拠点である筑波大学では,スポーツ界に留まらない新たな形のスポーツを産学官連携を通じて生み出すことを目指すスポーツイノベーション開発研究センター(SIRC)が設置されています。2020年1月より,SIRCにおいて,スポーツの価値を広く普及することを目指す「eスポーツ科学プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトでは,生理学,栄養学,睡眠学,哲学などの研究者が集い,eスポーツ科学についての研究が進められています。松井氏はスポーツ脳科学の専門家としてこのプロジェクトのリーダーを務めながら,eスポーツプレーによる体と心の応答に関する研究に取り組んでいます。
 筑波大学では,長年の研究の積み重ねにより,運動やスポーツのさまざまな効果が確認されてきました。フィジカルスポーツにおいて,ハイパフォーマンスを生み出すための三大原則(運動・栄養・休養)はeスポーツにも共通するといいます。例えば,先行研究によると,eスポーツのプレー前に認知機能を高めることが知られる15分間の適度な運動を行うと,eスポーツ時のパフォーマンスが高まることが紹介されました。反対に,フィジカルスポーツとeスポーツは,ともに長時間プレーによって実行機能(判断力)の低下,すなわち,認知疲労を引き起こすことも示されました。加えて,SIRC独自の取り組みと茨城県の支援により,一般学生における30分間程度のeスポーツのプレーが「フィジカルスポーツ時の活力と絆を育む身体と心の反応」の多くを同様に引き出すことを,心拍数,気分,唾液中のホルモン濃度等のデータに基づいて強く示唆しました。

 講演後は,1月に発表した,筑波大学と茨城県,NTTe-Sports,NTT茨城支店による「eスポーツ科学」を推進する産学官連携協定の内容について改めて説明いたしました。

 

 産学官それぞれの役割を遂行し,様々な実験検証から得られた効果を参考にしながら,健全なeスポーツへの取り組み方や新製品の開発等を通じて,eスポーツ産業の創生や新規イベントの開催によるeスポーツ先進県としての認知度向上を図り,今後のeスポーツによる地域発展に向け大きく前進していくことを目指します。
 この産学官連携協定について,たくさんのメディアに取り上げられ,参加者アンケートの回答の中には「協定について詳しく聞いてみたかった」との声が多くありました。

 産学官連携協定のキーパーソン2名が講師となって開催した今回のアカデミー。開催後も,「期待以上の内容で,初心者にとって入口の部分を開いていただきました。」という声をいただいたりするなど,その反響はとても大きかったです。

 研究とICT,自治体の連携・調整という取り組みによる今後の茨城県のeスポーツ振興・発展の大きな効果に期待が膨らみます。